はじめに
健康診断や人間ドック、あるいは症状があって受けたCTで「肺に影があります」と言われると、多くの方が強い不安を抱きます。
「肺がんなのでは?」と心配になるのは自然なことです。
しかし、CTで影が見つかったからといって、それが直ちに肺がんを意味するわけではありません。
医師が行う判断の大きな柱のひとつが「経過観察」です。
この記事では、肺のCTに映る影をどう経過観察して判断していくのかについて、医師の立場からわかりやすく解説します。
CTで「肺に影」とはどういうことか?
CTは胸の中を立体的に撮影できる検査です。
肺は空気で満たされているため通常は黒く写りますが、その中に白い部分があると「影」と表現されます。
この「影」にはさまざまな原因があり、
- 一時的な炎症
- 良性腫瘍
- リンパ節
- 肺がんなどの悪性腫瘍
など、良性から悪性まで幅広い可能性があります。
経過観察が必要な理由
CTで影を見つけたとしても、その場で「良性か悪性か」を確実に判断できるケースは多くありません。
- すぐに手術や生検をすると体への負担が大きい
- 良性の影を不要に切除するリスクがある
こうした理由から、まずは時間の経過による変化を追う「経過観察」が重要になります。
これは「放置」ではなく、診断を正確に行うための大切なプロセスです。
経過観察でわかる影の特徴と意味
1. 縮小する影
時間の経過とともに小さくなる影は、**炎症(肺炎や一過性の感染症)**であることが多いです。
薬や自然治癒で改善していくケースが典型的です。
2. 急速に増大する影
週単位で急に大きくなる影も、炎症性変化が疑われます。
急性の感染や免疫反応が関与していることが多く、悪性腫瘍は通常はこのような急速増大はしません。
3. 単調に増大する影
月単位で単調に、確実に大きくなる影は、悪性腫瘍(肺がん)を強く疑います。
CTで過去画像と比較してじわじわ増大している場合は要注意です。
4. 変化のない影
半年以上、あるいは数年にわたってほとんど大きさが変わらない影は、良性腫瘍や炎症後の瘢痕、リンパ節などが考えられます。
注意すべき「すりガラス影」
肺がんの中には、すりガラス影として現れるタイプがあります。
- 透明感のある白い影として写る
- 長期間ほとんど変化がないことも多い
- しかし一部は年単位でゆっくりと悪性化していく
このため、「変化がない=良性」とは限らず、数年以上にわたる経過観察が必要です。
経過が安定しているからといって途中で観察をやめてしまうのは危険です。
経過観察の目的
- 不要な侵襲的検査を避ける
影が良性の場合、手術や生検は不要。経過をみることで無駄な処置を減らせます。 - 影の性質を自然経過で判断する
炎症か腫瘍かを「増減のパターン」で見極めます。 - 悪性腫瘍を早期に捉える
肺がんでも初期なら治療成績が良い。定期的なCTで変化を追うことで早期発見につながります。
セカンドオピニオンが役立つ場面
- 主治医から「経過観察で良い」と言われたが、本当に大丈夫か不安なとき
- CTをどのくらいの間隔で撮れば良いか疑問なとき
- 「すぐに治療が必要か」「しばらく様子をみるべきか」で迷っているとき
こうした場合には、画像診断の専門医によるセカンドオピニオンが有効です。
別の視点で画像を評価してもらうことで、安心や納得につながります。
まとめ
肺のCTで影が見つかった場合、
- 縮小・急速増大 → 炎症を疑う
- 単調に増大 → 悪性腫瘍を疑う
- 変化なし → 良性の可能性が高い
ただし、すりガラス影のように長期間変化が少ない肺がんもあるため、経過観察は数年単位で続ける必要があります。
経過観察とは「放置」ではなく、最も安全かつ合理的に診断を行うためのプロセスです。
もし不安が強いときは、主治医に相談するだけでなく、セカンドオピニオンを活用することをおすすめします。