画像診断

不要な手術を回避できた症例

先日、非常勤として勤務する病院から相談を受けた症例です。

50歳代女性、悪性腫瘍を疑われ、手術目的で転院予定

50歳代の女性が胸痛を主訴に来院し、CTとMRIが撮影されました。心臓に近接して脂肪を含む腫瘤が指摘され、悪性の脂肪肉腫が疑われました。

手術を念頭に置き、患者さんは他の大きな病院へ転院する予定となっていました。

少し変わった画像所見であったため、私に相談がありました。

過去の論文を参照すると、稀ではありますが、脂肪壊死(epipericardial fat necrosis)に類似

画像を参照すると、心臓の左側に内部に脂肪を含む病変が認められますが、脂肪肉腫などの腫瘍としては少し非典型的な印象でした。

そして、以前に論文で同じような画像を見たことを思い出し、過去の論文を検索しました。

epipericardial fat necrosis

脂肪壊死(fat necrosis)という病態があります。文字通り、様々な原因により脂肪が壊死する状態です。心臓の周囲にも発症することがあり、epipericardial fat necrosis と称されます。

頻度はかなり低いですが、胸痛の原因となり、画像で疑うことができる病気です。治療は基本的には鎮痛薬の投与のみで、経過を見ることが多いようです。

手術は回避され、鎮痛薬のみで経過は良好

今回の症例も epipericardial fat necrosis を疑うという旨をお伝えしました。その結果、手術のための転院はなくなり、経過観察をするという方針となりました。

その後の経過で、胸痛は徐々に改善し、再度撮影されたCTでは病変の縮小が確認されました。これらの経過からも腫瘍ではなく、epipericardial fat necrosis をより強く疑う根拠となりました。

今回のような稀な疾患についても、論文や学会などで知見を得ることが必要

胸痛の原因となる稀な疾患を経験しました。

日々多くの画像を見ていると、通常の参考書には記載がないような稀な病気にもしばしば遭遇します。

そのような病気も見逃さないように、常日頃から論文に目を通したり、学会に参加したりして多くの知見を得ることが大切であると再度痛感いたしました。

引用画像 Victor P, et al. Epipericardial fat necrosis: radiologic diagnosis and follow-up. Am J Roentgenol, 2005; 185: 1234-1236.

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