50歳代男性、夜間に上腹部痛で救急外来を受診するも、異常なしとの判断で帰宅
急性腹症とは急性の腹痛を伴う病気の総称です。腹部のあらゆる臓器、部位で起こり得り、代表的な疾患としては虫垂炎、憩室炎、胆嚢炎、尿管結石などが挙げられます。
先日、少し変わった急性腹症の症例がありました。
患者さんは50歳代の男性で、上腹部痛を訴え夜間に病院を受診し、CTが撮影されました。当直の医師が画像を確認し、異常なしと判断され、患者さんは夜間に帰宅しました。
私は翌朝にその画像を読影しました。多くの病院では夜間帯には画像診断医は勤務しておらず、翌日の出勤直後に画像を確認することが多いです。
CTでは確かに上腹部痛の原因となりそうな膵炎や胆嚢炎は指摘できず、他の臓器にも明らかな異常はありませんでした。
ただし、以前のCTと比べると腹腔動脈という内臓を栄養する動脈が明らかに太くなっていました。動脈が太くなる原因に解離(血管が裂けた状態)という病態があり、腹痛の原因となり得ますが、造影剤を使っていないCTでしたので解離が存在するかどうかは判断できませんでした。
そこで、動脈解離の可能性があることを報告書に記載し、造影剤を使った詳しいCTを行うことを主治医にお勧めしました。後日患者さんは再度来院し、造影CTを行って腹腔動脈解離と診断されました。
腹痛の原因は様々であり、血管にも注視する必要があります
急性腹症の読影では内臓にばかり目が行きがちですが、血管にも注目する必要があります。
大動脈など太い血管の病気は見つけやすいですが、今回のような中型〜小型の血管病変はしばしば見逃されます。たとえ小さな血管病変でも破裂して出血性ショックになったり、血流が滞って臓器が壊死に陥るなど重篤な合併症を起こすことがあり、血管病変を見逃すことはしばしば致命的です。
今回の患者さんは幸いなことに出血や壊死などの合併症はありませんでした。
夜間や休日の画像検査は、多くの病院では後日に画像診断医が画像を確認しています
急性腹症の画像診断は患者さんと直接関わる機会の少ない画像診断医にとって、患者さんの治療方針に深く関われる可能性があり、そして主治医からの相談の頻度も多く、やりがいを感じられる分野の一つです。
夜間や休日もオンタイムで画像診断医が画像を見ることができれば、より診断精度が高くなり見逃しも少なくなると思います。ただし、マンパワーの問題で多くの病院でそれは実現できていない状況です。